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四言で綴る斜な日記。毎日更新する予定でした。
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 中三にして迷子というのはなかなか情けないものだ。どうしようか。
 見慣れない道路。目の前には『本里』と書かれた表札。手がかりが少ないな……
 そもそもどうやってここに来たんだっけ。ここへ至る道順すら覚えていない。酒の力だろうか。いや、泥酔するまでは飲んだことが無いし。でも、ここに立ち尽くしていたということはやはり何かしら……夢遊病か。それは無いだろう。今まで夢遊病である片鱗などは無かったし。
 ……悠長な思考だったのだな。しかもこの呑気さはあの事に気付くまで続いたというのだからお笑い種だ。
 ここに留まっていても何も進展しないだろうということを悟って、重い腰を動かそうとしていた時だった。向こうから見える人影。それはまさしくエミのものだった。誰かと話しながらこちらへ歩んでくる。助かった。
「エミ、ちょっと助けてくれるー?」
 わざわざ手を振って彼女を待っていたのだが、私の姿を確認するやいなや、立ち止まって隣に居る人と談義し始めた。
 誰だろうな、あの人は。エミと一緒に並んで歩くような人が思い当たらないのだけれど。
 待っていても埒が明かない。さっさと道を訊いて、とっとと帰ろう。そう思い立ち、エミの元へ駆け出そうとした時、私はやっと気付いた。
 天然――そう言われても仕方が無い。まさに愚の骨頂。
 私の足は見事に地面を通過――通過は表現が悪いか――その後つんのめり、腹這いになった状態で、空中――地面からおよそ数センチの所へ体ごと投げ出された。
 何が起こったのか、しばらくは分からなかった。当然だ。地面を蹴れば歩ける、と勝手に想像し、それがあたかも人類普遍の原理であるかのように15年間振舞ってきたのだから。私は浅学だったろうか。そうではない、そうではないと信じる。この不可思議な現象への疑問とは別に、もう一つ考えなければならないことがある。倒れるときに垣間見た、なにやら青い物……私の腕の動きに合わせるかのように、ちらちらと視界に入ってきた物。私はふと、自分の腕を見た。
 青い。しかも半透明だ。それはガスバーナーの火に似ていた。存在すらうかがわしい、透き通っていて、淡く儚い青。青……青!?
 私の腕が、体が、透き通っている!? 信じられない。信じられない! こんなこと、現実にあるはずが……
 ……あ、夢か。
 わけの分からない土地に立ち尽くしていたり、唐突にエミが現れたり、体が青く透き通っていたりしたのも、全てに合点が行くいい感じの結論じゃないか。うすうす感づいてはいたけれど、ここまで明確な虚構が出て来たのだから、もうこれは最終結論確定だ。さて、楽しむのも悪くは無いが、こんな意味不明な夢からはさっさと抜け出したいのでね。そう思い、私はほっぺをつねろうとした。
 ……指に頬の感触を感じない。スカスカと、文字通り雲を掴むような感覚。まさかと思い、手をグーにして、思い切り顔に向けて振ってみた。痛みはおろか、皮膚の感覚すら無くなっている。貫通……しているのだろう、すでに右手は左耳を掴めるくらいの位置に到達している。
ストレスかな。ろくな夢を見ないし、近々エミを引き連れてカラオケにでも行こう。
 とりあえず現実へは戻れないことが分かったので、この稀有な夢をエンジョイすることにする。夢なら、どうにかこうにか頑張れば立ち上がれるんじゃないか。きっとそうだろう。私は立ち上がろうとしてみた。すると、ゆっくりであったが、体が持ち上がった。そしてそのまま宙に浮かぶ。
 あー、なるほど。思った通りに動くのね。なんか、TVゲームの感覚に近い。
 立ち上がれてホッと一息……つく暇も無かった。何かがこっちに来る。猛ダッシュでやって来る。この人はエミと会話していた人じゃないか。しかも笑顔。満面の笑みだ。
「喰らえ! 飛び膝蹴り!」
 言うが早いか、その人は空中に身を投げ出し、スニーカーの裏面を見せるようにして飛び込んできた。とっさの事だ。反応できるわけも無い。その人の靴が私の腹部をえぐる。耐え難い腹痛。私の体は後ろの方へ投げ出され、空中でゆっくりと静止した。
「どこが飛び膝蹴り!? ただの飛び蹴りじゃないの!」
 反射的に口から出たが、ツッコむ所はそこじゃない。むしろ言及すべきはこの痛みだ。夢……じゃないのか。夢であるはずなのだ。夢じゃないと、私が困る!
「やっぱハルじゃねえか! ま、どんな姿でもお前はお前だな」
「ハル……やっぱりハルなんだね!」
 どの辺でこの二人はそう判断したのだろうか。
「ハル!」
 エミは何かしら機会があるとすぐに私に抱きつこうとする。私は若干の心構えをして、エミを待った。私の元へ駆け寄るエミ。溢れんばかりの美麗な微笑を顔に宿しながら近づき、私を抱擁しようと、手を伸ばした。エミの手は空を切り、重力に流されるまま私の足元に倒れた。うつ伏せになっているエミは、なにやら悲しい声で呟く。
「さわれないよぉ……」
 私が一番ビックリだ! 飛び蹴りはきちんとヒットしたのに、なんでエミの腕は通って行くんだ!?
目眩がする。吐き気もするな。ああ、訳が分からない。夢じゃないのか。じゃあこれは何だ。この素っ頓狂な体は何だ。
「楽しそうじゃねえか。その体」
 私の驚いた顔を見てよくそんな事が言えるね。
「楽しくないよ。だって、さわれもしないんだよ!」
 エミは立ち上がりざまに怒る。
「触れないから楽しいんだろ。何でも出来そうだよなぁ……」
「何考えてるの! ハルが大変な目に会ってるのに!」
「だってよぉ、あっちのハルを見たろ? 俺はむしろ嬉しいね。元のハルが残っててくれて」
「それは……そうね。何があっても、ハルはハルよね」
 置きざりかい。
「どうすっかな……」
 エミの頭上に電球が一つきらめいたように見えた。
「ねえ、二人を会わせてみたらどうかしら」
「混乱するだろうよ。それよりも、医者か誰かに……」
 気にしないで。夢ですから。夢のはずですから!
「そうだ、あの人の所へ行こう!」
 エミは首をかしげながら訊ねる。
「あの人って、高村さんのこと?」
「ご名答!」
 ……誰?
「じゃ、俺はカバン置いてくるよ。その後高村に訊きに行こうぜ!」
 そう言って目の前にあった家へ入っていった。そうか。
「あの人、本里って言うんだ」
 その言葉を聞いた途端に、エミは驚嘆すべき速さでこっちに首を向ける。
「え……?」
「妙に馴れ馴れしいけど。何? エミの彼氏?」
 エミは無表情のまま顔を赤らめた後、若干怒るようにして言う。
「うそ! 嘘だって言って、ハル!」
「何が?」
「ケンジを知らないはず無いでしょ!?」
「ああ、下はケンジって言うんだ。名前で呼び合う仲なんだ……へぇ……」
「私は……知ってるのよね?」
「何言ってるの? エミはエミでしょう?」
「……ケンジの事、忘れちゃったの?」
「忘れるも何も、初対面でしょ」
 だから、見知らぬ人に飛び蹴りを食ったときはものすごく驚いた。
「頭がとっても爽やかな人ね。エミ、悪いことは言わないからさっさと別れてしまいなさい」
「ハル……もしかして……」
 エミの言葉を遮るかのように、玄関の戸が開く。
「さあ、行くか!」
「待って! ハルが……ハルが!」
「エミ、どうしたんだよ」
「記憶喪失なの!」
 は?
「いいじゃねえか。そのうち高村が何とかしてくれるさ」
「良く無いよ! だって、ケンジのことも忘れてる!」
「そうか……だが、性格が変わっていないだけマシだと思わないか?」
「うん……そうだけど……」
「おいおい自己紹介するさ」
「冷静なんだね」
「あんな事があった後じゃなぁ……そりゃ冷静にもなるって」
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