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四言で綴る斜な日記。毎日更新する予定でした。
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 土砂降りの空はウズラと相まって私を酷く憂鬱にさせる。
 どうにか吐かずに放課後まで耐えたけれども、そろそろ限界が訪れようとしていた。
「エミ……私が嘔吐したら、迷わず見捨てていいわ」
「ごめんなさい。ここまで嫌いとは思ってなかったから……」
「わかった。お前のゲロを見たら即刻退散させてもらうぜ!」
「誰のせいだと思ってんのよ!」
 さて、このざんざん降りでは帰るに帰れない。家まではかなりの距離があるから、無理矢理強行突破などと言う事は不可能だろう。
「どうするよ、この雨。止みそうに無いぜ」
 私たちは玄関で立ち尽くしていた。大粒の雨と落雷を眺めながら。エミがぼんやりと雨粒を眺めて言った。
「傘って持ってる?」
「朝はかんかん照りだったんだぜ? んなもん持ってくるやつ居ねえよ」
「そっか……」
 その時、近くで雷が落ちた。煌く閃光、轟く雷鳴。
「きゃぁあっ!」
 エミはおもむろに叫び、近くにあった手頃なもの――ケンジの腕にしっかと掴まった。
「おぉう!?」
 ケンジの方もだいぶ驚いたようで、抱きつかれた途端に体が硬直した。みるみる真っ赤に染まっていくケンジの頬――
 ――離れろ
「……っ!?」
 ノイズのような思考が頭の中を巡る。反芻し、刻み込まれてゆくこの感情。また……か。もどかしい!
「ウズラのせいかしらね……気分が悪いわ……」
「いつも低血圧だとか言って気分悪そうにしてんじゃねえか。朝と大差ないぜ」
「ハル……大丈夫?」
「ええ、今のところはね」
 とりあえず、早々に帰宅しよう。そして、早めに寝よう。洗面器は必須だな。
 私はこの悪天を睨みつけた。傘が無いことを良いことに好き放題暴れまわる。
「傘……無いかなぁ」
 エミはカバンの中をまさぐった。しばらくガサゴソしていたが、やがて諦めたように肩を落とす。
「折り畳み傘も無い。どうしよう……」
 折り畳み傘か。懐かしいな。小さい頃はよく親に持たされたりしたものだ。
 私は自分の青いカバンの中を見た。乱雑に詰められた教科書、参考書。どれ、んー…………ん? おや。
「あった」
 カバンの最深部からひしゃげた小さな折り畳み傘が出てきた。三年間ずっと放置されていたに違いない。
「よくやった、ハル!」
 私はくたびれた傘を見る。それほど大きくない、むしろふつうの傘よりもやや小振りだ。せいぜい入れて二人。どうすんのよ。
「ケンジ……まさか、三人で入ろうなんて無茶な考えは……」
「他に何があるってんだよ」
 二人、か。一人だけ帰るのも忍びない。かといって一人だけ置いていくのも忍びない。
 ……ああ、そうか。こんな時こそ。
「私、急用を思い出したわ。ええ、大至急。傘なんか差して行ったら送れちゃうのよ」
 若干クサい演出だが、恋愛経験が皆無の私にはこれくらいしか思いつかないな。
「へえ、俺たちにくれるのか。そりゃあ助かるな」
 冗談のつもりだろうか。
「その通りよ。この傘はあなた達にあげるわ」
 私は手に持っていた傘をケンジのみぞおち辺りにぶつけた。
 ――ダメ
「さて、私はお暇しようかしら」
 私は豪雨を一瞥し、脇目も振らずに駆けた。すでに雨で白い闇と化した道路に向かって。
 ――ダメ!
「おい、待てよ!」
 雨は予想以上に冷たく、体の芯まで凍えてしまいそうだった。
 ――止まれ! 私は、私は!
 ケンジ達の声を振り切るため、私は叫ぶ。
「エミ。せっかくのチャンス、無駄にしたら呪うわよ?」
 ――逃げるな!
 わずかにほくそ笑み、成功を願う。相合傘――最高のシチュエーション、だ。……よね?
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