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四言で綴る斜な日記。毎日更新する予定でした。
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 ほの暗い階段を抜け、案内された先は地下室だった。コンクリートで出来た灰色の壁に、薬品や実験器具や――なぜか刃物が並んだ棚、小さなテーブルが複数個。殺風景と言うほか無い。出来れば付き添いなども欲しかったのだが、あの二人はそそくさと帰ってしまった。薄情者。
「では、これからじっけ……おっと、検査をしようか」
 実験って言いかけた?
「さて、まずはこの実験からやってみるかね」
 実験って言った!
 それからしばらく意味不明な実験が続いた。液体の中に手を突っ込んだり、体になにやらの機械を刺したり、あまつさえ私に物を投げてきたりした。
「高村さん、これって意味あるんですか?」
 鉄の塊を手に持った高村が弁明する。
「ふむ……もうすぐ何らかの結論が出そうだ。しばし耐えてくれたまえ」
 鉄の塊が私の頭を通ってゆく。痛くはないけど、なんだか痛い気がする。
 何やかんややっていたようだが、しばらくして高村は奥の部屋に閉じこもってしまった。
「はぁ……私、何やってんだろ」
 現実だという事は、いい加減に認めなければならなかった。あまりにこの世界は現実味を帯びているし、私が変になっている事以外、何一つ変わらない日常がこの世界で展開されているのだから。ただ、それが嫌で嫌でたまらない。私だけが変なのだ。私だけが。出来れば夢だと思いたい。どうか夢オチにしてください。どうか……
「最後の実験だ。私の仮説が正しければきっと……」
 そう言って高村はガラスの窓を持ってきた。
「それをまた私にぶつけるの?」
「いや、触ってくれるだけで構わない」
 触れないのは承知のくせに。私は多少の倦怠感を覚えながら、そのガラス窓に触れてみた。
「あ!」
 思わず口からこぼれる。だって、さわれたんだもの。ガラスに私の指紋が写る。久々に感じた、モノの感触。ひんやりと冷たく、硬かった。
「やはりそうか」
「分かったんですか?」
「やはり君の体は……」
「私の体は……?」


「うわぁ……私だ。私が幽霊になってる」
「これが私……鏡を見てるみたい。あまり実感が湧かないわね」
 居なくなったと思ったケンジとエミが、『私』を引き連れて戻ってきた。ぼっさぼさの髪、他人を気にしないその服装。確かに『私』そのものだった。しかし顔は……鏡で見る顔はいつも冷たく倦怠で溢れていたが、『私』の顔はやや間が抜けていて常に楽しそうにしている。
「気味が悪いな。二人のハルってのも」
「そうだね。同じ人が二人そろって居るんだもんね」
 きょろきょろと視線を動かしている。好奇心の塊を含んだ目が私を貫く。
「初めて会った幽霊さんが私なんて……運命を感じちゃうっ!」
 想像以上に『私』は私じゃ無かった。さん付け、語尾に促音。信じられない。
「楽しそうね! 飛べるんだ……いいなぁ……私も大空を飛んでみたい!」
 ケンジと負けず劣らずといった所か。
「ねえねえ、学校どうする? どうせなら一緒に行こうよ。学校のみんな、びっくりするよ! そうだ、メールして友達みんなに教えておこう! あ……やっぱり、ドッキリ的なモノがあった方が良いよね。うん、そうしよう!」
 よく喋る女だ。友達にしたくないタイプだな。
「そういえばさ、そのゴム手袋、何なんだ?」
 ケンジが指し示す私の手には、ピンクのゴム手袋が装着されている。
「これはね……」


「その体、実は電気で出来ているのではないかと思うのだよ」
 バカ?
「なんだね、その呆れたような目は。ガラスが触れたのだから、間違いは無い!」
「ガラスと電気とどう関係があるわけ?」
「ガラスは絶縁体。電気を通さないのだよ。だから、触れたのだな」
 電気を通さない物は触れる……
「え? じゃあ、もしかして……」
「気付いたかね? ゴム手袋さえ付ければ、君はどんな物でも触れるようになるのだよ」
 なるほど。伊達に科学者を名乗っているわけではないか。
「そうだ。尊敬の眼差しで見ると良い。朝の時の目などは君に似合わないからな」
「朝? 何かありました?」
「胸が洗濯板のようだと言ったから、それで君が怒って……」
 !
「ゴム手袋を出しなさい」
「っ! 忘れていた! 悪かった。謝るからその冷たい声を元に戻し……」
「黙って差し出せ」
「お願いだ。やめてくれ」
「さもなくば地下室に断末魔が響く事になる」
「それは差し出しても同じだろう!? すまなかった。失言だった。だから……」
「あら、これは……ガラスのナイフね。切れるのかしら、試してみてみましょう」
「しまった! 待て、刃物は止めたまえ! そんな……そんなに大きく振りかぶらないでくれ! 本気で死んでしまう! やめろ!」


「で、暴れたのか」
「え? 何の事?」
「ゴム手袋に血が……まさか殺したんじゃ……!」
「しないわよ。流石にそこまでは。ただ、色彩豊かな顔にしてあげたけどね。赤とか青とか」
「……ゴメン、高村。俺が付いていればこんな事には……」
 失敬な。私にだって了見という物はある。
「早く……お引き取りになってもらいたい……私には……もう、余力が残されていない……」
 階段から声がする。振り返ってみると、顔面がぼこぼこに腫れ、切り傷まみれの高村が地下室から出てきていた。
「た、高村ぁ!」
「高村さん!」
「うっわぁ……え? 『私』がやったの? コレ」
「さて、帰りましょうか」
「早々に帰ってくれ! 死んでしまう!」

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