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四言で綴る斜な日記。毎日更新する予定でした。
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 太陽が朱に染まり始める放課後。
 特にする事も無かったため、私は一人屋上で寝ていた。屋上は実質立ち入り禁止になっている上、どの窓からも見えないため、誰にも邪魔されずに有意義な睡眠を楽しむことが出来た。が、
「今何時……」
 辺りに時計は無く、時刻を伝える物は夕日くらいしかない。真っ赤ではないから、きっと5、6時なのだろう。
「寝過ごした……」
 私は一度寝たらなかなか起きないからな。目覚ましか何か無いと非常に困る。ともあれさっさと帰らなければ。ここに居たってどうしようもない。
 私は閉まったままの扉を通過し、歩くことなく階段を下りる。やがて一階に着き、さて帰ろうかと愚直に玄関から出ようとしている時だった。
どこからか声がする。こんな時間に残っているとすれば部活の人か先生くらいなものなのだが、その声は確かに、教室から聞こえてきた。
 普通なら気にもとめない些細な事だ。しかし、この間延びした声には聞き覚えがあった。間違いなく、あの人の声。
 私は急いだ。第六感が警告のサイレンをけたたましく鳴らせているのだ。
「んで、わざわざ手紙で呼び出した理由は?」
 三年五組、私達の教室。そこに彼らは居た。夕日を背に問いつめるケンジ。そして、その相手は――
「えっと……その……伝えたい事があって……」
 『私』だ。太陽のせいか、『私』がものすごく赤く見える。ただ、一番赤いのは顔であった。
「手紙でも言えないような用件なのか?」
 さすがに……鈍感な私でも分かる。どうする。止めるべきか? 傍観すべきか?
「あ! ハル、探したんだよ!」
 エミ……来ない方がいい。きっと後悔する。
「どうしたの? 教室には誰も……」
 そう言いかけて、エミは口ごもる。私の隣で中の様子を見つめるエミ。扉の窓越しに『私』とケンジが見える。エミの目には、どう映っているのだろうか……
「なあ、ここで言わなきゃいけない事なのか?」
 私より鈍感だな……
「……その……えっと……」
 『私』はうつむき、下ばかり見ている。口を開き、喉の奥から声にならぬ声を小さく発し、やがてまた口を閉じる。口をぱくぱくさせて、まるで魚のようだ。それも、陸に揚げられて死にかけのやつ。
「どうしたんだよ。お前らしくもない」
 そうだね。私はそんなに床のタイルが好きな訳じゃないもんね。
「私……私っ……」
 悲痛な『私』の呻き。悲愴なエミの顔。どっちも、違った意味で見たくない。
「どうした? 腹でも痛いのか。保健室まで連れてってやろうか? 肩だけなら貸してやらない事も……」
 ケンジは皮肉っぽく言った。しかし、それはすでに冗談にならない。『私』の次の言葉は……多分、きっと、恐らく……
「ケンジ……付き合って」
 思い出した。あの日の事、そして、ケンジの事を。あの日、私が何を思ったのか。あの日、私は何をしてしまったのか。全て思い出してしまった。
 そして解ってしまった。今日、なぜ彼女がこの行為に至ったのかを。
 熟れたトマトのように赤くなった『私』の顔を見つめ、ケンジはゆっくりと、躊躇うように言う。
「ごめん。俺……お前の事が好きだから……」
 は?
「え? あ……そういう事……」
 少し戸惑った後、『私』は唇を噛んだ。悔しそうな目をしている。だが、何かを恨んでいるような目でもあった。
「うぅっ……ケンジ……」
 私の横で、静かに嗚咽を漏らすエミ。顔を隠すこともなく、ひたすら手の甲で涙を拭っていた。
 ……どうやらケンジの発言を理解していないのは私だけのようだ。なんだというのだ一体! 言っていることが矛盾している!
「ゴメンな」
 申し訳無さそうに言うケンジ。
「ううん、私こそ……変な事言っちゃってゴメンね」
 『私』は模造品の笑顔をケンジに見せた。どこかぎこちなく、やはり無理をしているのだなとはっきり見て取れた。
「……じゃ、帰るよ。また明日な!」
 ケンジはいつも通りの笑顔を見せて、鞄を手に教室を出ようとした。
「うん、また明日!」
 出来るだけ普段通り。その思いが二人の笑いに込められていた。
「……ほら、行くよ。エミ」
 一部始終見てました、なんて事が知れたら危険な事になる。一刻も早くこの場から立ち去らなければ。私はさめざめ泣くエミを説き伏せて、一旦隣のクラスに隠れた。
 廊下に反響する二人の足音。私とエミはその音が消えるまで息を潜めた。
 だんだん思考が落ち着いてきた。そして、ある事実が私の脳に響く。
 ……玉砕してしまったのだ、『私』は。私よりも数倍行動力があって、私よりも数倍勇気がある、今までずっと目標としていた『私』ですら――理想の『私』ですら……駄目だったんだ。
「まあ、仕方ないよ。私は一度諦めたんだから……」
 エミのために。横で泣いている、エミのために。
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